高レベル放射性廃棄物:地層処分、安全性に懸念 放射能、1000年後地上に

毎日新聞 2006年5月22日 東京朝刊→cache
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/env/news/20060522ddm016040026000c.html

地震、隆起で甚大な被害も

 日本原燃青森県六ケ所村)の使用済み核燃料再処理工場が実質稼働したことから、来年にもウランやプルトニウムとともに、高レベル放射性廃棄物である「ガラス固化体」が大量に生み出される。強い放射能と熱を出す核分裂生成物(死の灰)をステンレス容器に詰めたもので、地中深く埋める地層処分が計画されている。しかし、1000年後とはいえ将来的には放射能が地上にしみ出す可能性があり、環境への影響を懸念する声も出ている。【中村牧生】

 ■地下に10万年

 ガラス固化体に人が近づけば数秒で致死量の放射線を浴びる。このため10万年以上は人から遠ざける必要がある。

 地層処分はガラス固化体を深さ300メートル以上の地下に埋め、10万年以上にわたって岩盤が放射能を閉じ込めてくれることを期待する方法だ。

 六ケ所村の再処理工場が本格操業すると、ガラス固化体は年間で約1000本、40年間で約4万本が作られる予定。これとは別に日本が再処理を委託した英仏からの返還分2200本もある。

 核燃料サイクル開発機構(現・日本原子力研究開発機構)が「地層処分は技術的信頼性がある」と報告したのを受け、国は00年に法律を整備して実施を決定。国の認可で設立された「原子力発電環境整備機構」が実施を目指し、全国から処分候補地を公募している。

 再処理工場からアメリシウムなど超ウラン元素(TRU)を含む放射性廃棄物もドラム缶で年間8800本出るが、これもガラス固化体と一緒に「併置処分」する検討が進んでいる。

 ■水溶性物質も

 ガラス固化体は30〜50年は地上で貯蔵し、放射能と崩壊熱の減少を待ってから地中に埋める。地中では周囲を金属製の壁(オーバーパック、厚さ約19センチ)と粘土(同約70センチ)で二重に囲む。この「人工バリア」に加え、安定した地質という「天然バリア」で、放射能を長い間、人の生活環境から隔離する。

 オーバーパックの耐用年数は1000年程度で、それ以降は地下水が浸透して放射能の一部が地上に到達することが予想される。それでも原研機構・地層処分研究開発部門の梅木博之・研究主席は「地上にしみ出す放射能のピークは80万年後と予測され、レベルも自然界の放射線の100分の1以下。TRU廃棄物も数百メートル離しておけば併置処分しても問題にならない」と話す。

 しかし、報告書を詳細に検討した神奈川工科大の藤村陽・助教授(物理化学)は「非常に極端な場合として、1000年以前に地震が直撃してオーバーパックが割れ、その断層を地下水が上昇して放射性物質が地上に漏れる可能性を考える必要がある。またTRU廃棄物にはヨウ素129など水溶性の放射性物質が含まれ、地上への影響はガラス固化体より大きい。甘く見ない方がいい」と指摘する。

 ■場所選定難しく

 さらに地震などで地層が隆起し、万が一にも地上にガラス固化体やTRU廃棄物が出てきたら被害は甚大となる。このため処分場は10万年間で300メートル以上隆起しないことが選定条件とされるが、地震学者からは「10万年間も安定な地層は日本のどこかにあるかもしれないが、事前の調査で選定するのは無理」との意見もある。

 地層処分の場所が決まり、埋め立てが開始されるのは早くても60年ごろとされる。候補地の立候補受け付けは02年末から始まっているが、いまだに手を挙げた自治体はない。

毎日新聞 2006年5月22日 東京朝刊